研究概要 |
膵癌,胆道癌(肝外胆管癌,胆嚢癌,肝内胆管癌)は解剖学的に近接した部位に発生する同じ腺癌でありながら,その治療成績には現在でも大きな相違がある。特に膵癌は極めて予後不良な疾患であり,生物学的悪性度が高いことが指摘されている。そこで同一モデルで上記疾患の相違点を癌遺伝子レベルや消化管ホルモン作用で解明できれば発癌機序や増殖・抑制機序の相違が同時に判明すると考えられる。従来,ハムスターに発癌物質のN-mitrosobis(2-oxopropyl)amine(BOP)を投与すると,膵癌と肝内胆管癌は誘発されるが,肝外胆管癌と胆嚢癌の発生は認められなかった。しかし我々がハムスターに膵管・胆道合流異常(総胆管切離,胆嚢十二指腸吻合術)を作製したCDモデルにBOPを投与すると膵癌と肝内胆管癌のみならず,肝外胆管癌,胆嚢癌が高率に発生し,さらに前癌病変-早期癌-進行癌までの一連の病変を作製しうることが判明した。 特にこれらのCDモデルでは,早期胆道癌が高率に発生したので,これらとヒト早期胆道癌を病理組織学的に比較し,発生早期の胆道癌の発育形態を観察した。さらにこの様にしてできたハムスター胆道癌と膵癌の発生機序の解析を目的として,1)胆道内膵液逆流と胆嚢・胆管・膵管上皮の変化,2)胆道系ホルモンのCCKとそのantagonistCR-1505投与の影響,3)内因性CCKの影響と逆流十二指腸液の影響を検討した。その結果,ヒト早期胆道癌とハムスター早期胆道癌は形態学的に近似し,polyp型で発生することが判明した。CDモデルにCCKを投与すると,肝内胆管癌と肝外胆管癌の発生率は上昇したが,胆嚢を十二指腸と吻合するのではなく,回腸(90%小腸)と吻合し内因性のCCKを上昇せしめるCIモデルでは肝外胆管癌と胆嚢癌の発生率は低値であった。この相違を胆道上皮の細胞増殖能から検討したところ,肝外胆管癌と胆嚢癌の発生にはCCKの関与は少なく,膵液と肝汁を含んだ十二指腸液の逆流による細胞増殖刺激が発癌を助長している可能性が示唆された。一方,膵癌においてはCIモデルとCDモデルで同様の発生率を示し,CCKや十二指腸液の逆流の関与は否定的であったが,肝内胆管癌ではCCKの投与のみならず,CIモデルにおいてもCDモデルより有意に発生率は高く,CCKとの密接な関与が示唆された。
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