研究概要 |
発癌過程の様々な段階における症例を用いて肺癌発生過程の一端を解明することを試みた.PCR-SSCP法を用いてp53遺伝子変異を検討した結果からは,胸部X線無所見肺癌という肺癌発生の早期の段階においても遺伝子変異は進行癌と同程度存在した.p53免疫染色を用いた検討では,異型上皮・早期肺癌・進行肺癌と癌進展度の進行と共に染色陽性率の増加を認めた.正常上皮や過形成ではp53の異常は認められなかったこと,異型上皮の段階でp53の異常が認められたこと,癌進展の進行と共に免疫染色陰性化した症例を認めたことなどから,肺癌発生過程において,p53遺伝子変異が関与する段階は異形成といった,かなり早期の段階からである可能性が高いものの,p53遺伝子変異のみでは癌化しないと考えられた.次に,p53の転写制御蛋白であると考えられているp21蛋白について免疫染色を用いて検討した.肺癌切除標本における免疫組織染色に限っていえば,p21蛋白とp53蛋白の発現に関しては一定の相関は認められなかった.p21を制御する遺伝子がp53のみではないことを示唆していると考えられた.p21蛋白の陽性率に注目すると,高率であったのはリンパ節転移のある場合(P=0.026)であり,未分化な癌(大細胞癌,小細胞癌)および術後病期「期以上においても高い傾向を認め,腫瘍自体の局所での増殖というより,浸潤や転移など腫瘍の悪性度との関連が示唆された.最後に,細胞死(アポトーシス)がp53といかに関連しているかを,アポトーシス関連遺伝子bc1-2免疫染色およびTUNEL法(Apop Tag)を用いて検討した.アポトーシス関連遺伝子bc1-2, Stageの早期のもので陽性率が高い傾向がみられた(特に扁平上皮癌).生存率はBc1-2陰性のものが陽性のものより,予後不良傾向であった.予後因子としての有用性が示唆されると考えられた.p53とApop Tagとの間に明らかな相関がみられなかった.Bc1-2 (+), p53 (+)でApop Tag陽性率が有意に高く(P=0.018),従来のpathwayで説明できない症例が存在し,他のアポトーシス関連因子の関与も示唆された.
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