研究概要 |
本年度は中枢変動磁気刺激あるいは経頭蓋電気刺激により惹起され、脊髄高位から記録される電位(motor evoked potential MEP)について以下の3つの実験的・臨床的研究を行った。 1.吸入麻酔薬の影響:日本サル3頭を用いた実験では刺激が充分な強さであれば Isoflurane,Ethraneの影響は小さかった。しかし、刺激の強さが充分で無い場合にはD-waveの振幅は著しく低下した。臨床例でも麻酔導入後の磁気刺激の振幅は、導入前のそれに比較して約37%に低下した。したがって現在最も頻繁に用いられている吸入麻酔薬下では磁気刺激によるMEPを脊髄機能モニタリングに利用するのは適切でないと判断した。 2.術後に発生し得る脊髄損傷を予防する目的で麻酔半覚醒の状態から術後にかけて磁気刺激によるMEPを約40例の臨床例で観察した。約80%の症例では判読可能な波形を観察することが出来たが、術中電気刺激によっても低い電位のMEPしか記録し得なかった症例などでは覚醒時にも明確なMEPを記録できなかった。術後脊髄麻痺を呈した症例には遭遇しなかったが、ある程度の制限はあるものの充分に臨床応用が可能であると判断した。 3.多髄筋に脊髄圧迫所見を観察し得た12例に対してチユ-ブ型電極をクモ膜下腔に挿入し圧迫部位を越えて中枢部にまで進め磁気刺激によるMEPを記録し、1髄筋ずつ電極を引き出し電位変化と伝導時間の変化を観察した。他の2例においては狭窄部を越えて中枢側に電極を進めることが出来なかったがこの検査は覚醒時に行うので電極挿入に起因する合併症は全く経験しなかった。全例において障害部位を明確にすることが可能であり本法の有用性を確認することが出来た。
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