研究概要 |
SV40のT抗原をアデノウイルスベクターを用いて細胞内に移入し,ヒト不死化角膜上皮細胞を作成することに成功した.樹立された細胞は,角膜上皮としての形質をよく保存しており,絨毛やデスモゾームのほか,アルデヒド脱水素酵素の存在も確認された.つぎに,本細胞株を応用して幾つかの実験を試みた.まず,上皮細胞の分化に関与する蛋白として,皮膚表皮でよく研究されているトランスグルタミナーゼに着目,本酵素のmRNAの発現をRT-PCR法によって検討したところ,単層培養した不死化角膜上皮細胞に確認された.重層化した部分では,トランスグルタミナーゼの基質であるコ-ニフィンが陽性となっていた.さらに,サブスタンスPの添加して培養すると,接着蛋白であるカドヘリンの発現が増強することから,本細胞が角膜上皮における角化機構や接着機構の解析にも応用できる可能性が窺われる.また,ヒト角膜実質細胞を含むコラーゲンマトリックス上に,不死化角膜上皮細胞を播種すると,ゲルと平行に配列する実質細胞とともに,重層化した上皮細胞層が形成された.代用角膜としての可能性を探るため,動物モデルにおける検討が現在進行中である.最後に,各種点眼薬の細胞障害を不死化角膜上皮細胞からの乳酸脱水素酵素の遊離を指標として試験管内で評価する方法を考案し,ウノプロストンおよびチモロール点眼薬の細胞毒性を確認した.本細胞株はこれまでに海外を含めた多数の研究施設に送付されている.従来は限られた施設でしか利用することができなかったヒト角膜上皮が比較的簡便に入手できるようになった恩恵には計り知れないものがあるはずである.
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