研究概要 |
抗下垂体抗体のWestern blot法で陽性バンドとして多く確認された抗下垂体抗体対応抗原のひとつである22kDaタンパクの解析をラット下垂体から細胞質分画を抽出し,高速液体クロマトグラフィ(HPLC)により対応抗原の分離分取して抗下垂体抗体陽性患者血清と反応する蛋白のピークフラクションを用いてアミノ酸配列解析を行った結果,N末端側からP-A-M-L-S-S-L-F-N-A-V-L-Rのアミノ配列を解析した。この配列をホモロジー検索して解析した結果,種々の動物腫のソマトトロピン(成長ホルモン; GH)と一致する結果が得られた。ホモロジー検索結果においてソフマトロピンの分子量とHPLCのピークフラクション分画中の蛋白分子量が一致していることや臓器由来からもこの蛋白は,ソフトトロピンであると推定された。抗下垂体抗体(APA)のスクリーニングテストとしてEnzyme-linked immunosorbent assay (ELISA)を用いた抗下垂体抗体測定法(ELISA/APA)を確立し,その臨床的有用性について検討した結果,自己免疫性甲状腺患者では約20%にELISA/APA陽性がみられ,橋本病に比べバセドウ病で抗体価が高い症例がみられた。陽性を示した患者検体をWB法により検索すると,橋本病11例中4例(36. 4%),バセドウ病21例中6例(28. 6%)に陽性バンドがみられ,その多くが22kDaのバンドが反応していた。糖尿病についてのELISA/APAによる検討成績では, IDDM64例中25例(39. 1%)と効率に陽性がみられ,そのうちWB法で25例中16例(64. 0%)が陽性を示し, 22kDaのバンドを認める症例が多くみられた。このことは, IDDMと抗下垂体抗体のうちとくに22kDaのタンパクに対する抗体がIDDMと密接に関与し,何らかの免疫学的発症の機序に関係しているものと推察され,自己免疫性多臓器内分泌障害の発症機構との関わりについて示唆される成績でもあり,今度さらに検討する必要があると思われた。
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