研究概要 |
マクロファージ遊走阻止因子(MIF)は脳下垂体,T細胞などから分泌され,in vitroでマクロファージの遊走を阻止する機能を持つサイトカインである.本研究では,このサイトカインの機能を構造から研究するために,ヒトおよびラットのMIFのX線決勝構造解析を行った.ヒトおよびラットの肝臓のMIFは,それぞれ2種類の結晶系に結晶化した.これらの結晶はすべて2A前後までの回折を記録できる性質のものであった.ラットのMIFの構造解析にはセレノメチオニンを使ったMAD法を適用し,ヒトのMIFはラットの構造を利用した分子置換法を使った.解析にあたって,遺伝子操作により,分子中にある3個のMetの内の2個までをAlaに置き換えたミュータントを作製し,これを利用した.MIFの構造解析は遺伝子工学により重原紙の数と場所をコントロールして解析を行ったはじめての成功例である.MIFは溶液中では2量体として存在していると考えられていたが,解析の結果は3量体であった.その構造は,MIFとほとんど同時にYork大学のD. B. Wihleyのグループによって解析された異性化酵素5-carboxymethyl, 2-hydroxymuconate isomerase (CHMI)と非常によく似ていることがわかった.両者のアミノ酸配列には,ほとんど類似性が見られなかったにもかかわらずである。免疫系をつかさどるサイトカインであるMIFが異性化酵素と関連があることは,それまで誰も予期していなかったことであり、本解析はMIFの機能について新しい方向性を与えることになった.DOPDなどの異性化酵素の構造解析と構造比較,MIFの真の基質の同定とその作用機能の解明,さらにはMIFリセプターの同定と複合体の構造解析など多くの研究テーマが今後に残されている.
|