研究概要 |
遺伝子発現の最も重要な段階である転写開始反応は、各遺伝子に特異的なDNA結合性転写因子と全ての遺伝子に共通な基本転写因子との相互作用により制御されている。本研究は、基本転写因子の一つであるTF II Aの構造と機能を解析し、TF II Aが上記二つの転写因子間の橋渡し役をするコアクチベータ-として機能することを明らかにした。ヒトTF II Aは、分子量37kD、19kD、13kDの三つのサブユニットから成っており、TATAボックス結合性タンパク質(TBP)に結合し、基本転写活性に関与すると考えられてきた。本研究では、ラテックス粒子上に組換え酵母TBPをスペーサーを介して固定化したTBPアフィニティー粒子を作製し、これを用いてヒトTF II AをHeLa細胞抽出液より多量に分離・精製することができた(Shiroya et al.,Internl.J.Bio-Chromatog.,1:191-198,1995)。37kDaサブユニットの部分的アミノ酸配列を決定し、cDNAをクローン化した(Ma et al.,Genes Dev,7:2246-2257,1993)。また、生化学的解析によりTF II Aは、TBP結合性因子Dr2の転写抑制効果を解除し、Ga14-VP16などのアクチベータ-の作用を仲介することを示した。 Drosophilaのfushi tarazu遺伝子のプロモーターに結合して転写を活性化するアクチベータ-FTZ-F1がある。また、そのカイコのカウンターパートとしてBmFTZ-F1あるが、BmFTZ-F1の活性化にコアクチベータ-として機能するMBF1およびMBF2が分離・精製された。組換えMBF1およびMBF2を用いた生化学的解析により、MBF1はBmFTZ-F1とTBPの両方に結合し、TBPとBmFTZ-F1の間の橋渡し役をしていることがわかった。また、MBF2は、MBF1結合すると共にTF II Aと相互作用し、BmFTZ-F1による転写促進活性にはMBF1とMBF2に加えて、TF II Aが必須な因子であることを明らかにした(Li,F-Q.et al.,投稿中)。この研究成果は、TF II Aがアクチベータ-と転写開始複合体との間の橋渡し役をするコアクチベータ-として働くことを示すものである。
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