研究概要 |
脳の発生過程における前駆細胞のマーカーを単離するために、我々はまず、発現しているmRNA量の違いに基づいてcDNAクローンを単離するための方法について改善を加えた。一連の実験により、(1)発現量が比較的多いものについてはmodified differential screening法(total cDNA probeをcDNA library DNAから調製する方法)を、(2)発現量が比較的少ないものについては改良型cDNAサブトラクション法(Directional tag PCR subtraction法)を用いることによりcDNAクローンが効率よく選択できることを示し、(3)発現量の確認にはNorthern blot解析法に代ってcDNA library DNA Southern blot解析法が有用であることを明らかにした。これらの手法を使用することによりcDNA libraryを一度調製すればそれ以後組織からのRNAを必要とせずに解析を行うことができるので、微量の発生過程の脳組織を用いての解析に有用である。我々は次に、胎生16日のラット脳からpoly (A) RNAを抽出してcDNA libraryを作製し、上記の手法を用いて、胎生期ラット脳には豊富に存在するが成熟脳における発現は著しく減少するmRNAのcDNAクローンの単離を行なった。我々はこのような"胎生期脳選択的"cDNAクローンをこれまでに22種類単離することに成功し、上記の手法が有効であることを示した。塩基配列解析の結果、それら“胎生期脳選択的"クローンの中には9種の既知クローン(βtubulin Mβ5、αtubulinMα1,tymosinβ10,stathmin,βtubulin Mβ2,α-internexin,ferritin Lg subunit,neuronatin,amphoterin)と、13種の新規クローンが含まれていることが判明した。in situ hybridization法での解析では、これらのmRNAの発現は各クローンごとに様々のパターンを呈しながら、脳発達に伴って減少していた。これらの中に、発達過程の小脳の外顆粒層やsubventricular zoneに選択性の強い発現を示すクローンが認められ、脳神経系の発生・分化過程の解析に有用な新しい分子マーカーとして利用できる可能性が示された。
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