研究概要 |
老化した神経系では、神経突起を支える細胞骨格の機能的、構造的破綻を示唆する所見が多数みうけられる。また、アルツハイマー型老年痴呆脳に蓄積する神経原繊維変化が、微小管調節蛋白の一つであるタウ蛋白を主成分とすることから、異常構造物の生成と細胞骨格蛋白の代謝異常との関連が推察される。本研究では神経細胞、特に神経突起における細胞骨格の代謝調節機構を解明し、その加齢変化を明らかにすることを目的とし、固体レベルの軸索内輸送系と、培養神経細胞の系を併用して、以下の成果を得ることができた。 1.ニューロフィラメント(NF)に作用する薬物β, β'-イミノジプロピオニトリルを用いて、加齢に伴う細胞骨格蛋白輸送速度の低下や通過障害に似た異常蓄積を実験的に再現することができた。その結果、NFのリン酸化状態が、NFと微小管の相互作用およびNFの輸送を調節する要因の一つであること、輸送阻害により蓄積した蛋白を選択的に分解する機構が存在することが判明した。(J. Neurochem., 63, 291-300, 1994) 2.ラット前根より軸索に局在するタウ蛋白を調製したところ、脳微小管由来のタウにみられる多数の分子種のうち、ごく一部の高度にリン酸化されたもののみを含むことがわかった。その60%が不溶性である(Biochem. Biophys. Res. Comm., 210, 338-344, 1995)。坐骨神経運動繊維では、不溶性タウは、不溶性チューブリンとともに最も遅い速度成分SCaで輸送され、可溶性タウは、これらより速い成分SCbで輸送される。 3.成熟軸索に特徴的な不溶性チューブリンは、培養下の後根神経節細胞においても、突起形成に伴って出現し増量する(J. Neurochem., 64, 354-363, 1995)。ビデオ増強微分干渉顕微鏡観察により、不溶性チューブリンの実体が、細胞外液中でも数時間以上も脱重合しない安定型微小管であることがわかった。
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