研究概要 |
1)侵襲法(神経生理学的研究):場所を条件とし,多数の情報の符号化が必要とされる条件連合課題(場所依存性条件連合課題:PCA課題),および場所を条件としない,比較的少数の情報の符号化だけが要求される条件連合課題(場所非依存性単純条件連合課題)遂行中のサル海馬体および中隔核ニューロンの応答性を比較・解析した。その結果,サル海馬体の応答ニューロンは,i)PCA課題に選択的に応答し,自発放電頻度が低く,応答潜時が長いニューロン群(67%)と,ii)課題選択性がなく自発放電頻度が高く,応答潜時が短かいニューロン群(33%)に分類された。同一物体で同一の連合課題(Go/Nogo課題)を用いているにも関わらず,PCA課題に選択的に応答する海馬体ニューロンの存在は,場所と対象物体の連合,および情報の符号化における複雑性が海馬体ニューロン応答の重要な支配因子となることを強く示唆する。また,これら二つのニューロン群は、それぞれ錯体ニューロン,および抑制性介在ニューロンに相当すると考えられ,海馬体におけるニューロンの機能的分化が示唆される。一方,サル中隔核ニューロンのi)13.5%は居場所に関して識別的に応答した,ii)13%はPCA課題だけに識別的に応答した,iii)7%は,課題に関わらず,報酬あるいは無報酬物体に選択的に応答した。以上より、中隔核は場所の認知→居場所の違いによって変化する物体の意味の識別という一連の過程を統合する上で重要な役割を果たしていることが示唆される。 2)非侵襲法(双極子追跡法.機能的MRI法):i)パターンオンセット刺激による視覚誘発電位の電流発生源(双極子)を双極子追跡(DT)法により推定した。等価双極子は,視野の中心部刺激では,刺激野反対側の後頭葉視覚領の後方に,視野の周辺部刺激では,刺激野反対側の後頭葉視覚領の前方に推定され,非侵襲的にヒトの後頭葉視覚領における網膜部位局在性をほぼ再現することができた。また,サルの体性感覚誘発電位を解析し,双極子が,視床→3野→1,2野→5野に順次移動していくこと,およびP18(潜時18msecの陽性電位)の電流発生源が5野であることを明らかにした。 ii)本研究で開発した特殊脳定位固定装置を用い,リック(舐め)行動中のラットの頭部をfMRIで撮影した。グルコース溶液および蒸留水のリック行動中の信号強度を差分した結果,グルコース溶液摂取により視床下部の信号強度が増加(血流が増加)することが明らかになった。また,脳虚血直後のfMRIで撮影により,海馬体CAI領域の遅延神経細胞壊死の予後診断ができることを示唆する所見が得られた。
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