研究概要 |
本研究は,超伝導SNS接合の一方のS電極を超伝導探針とし,これを走査することによって高周波フォノン源を移動させながらフォノンの透過特性の2次元分布を観測する走査フォノン透過顕微鏡(SPTM)の開発を目的として行われた.本研究ではSPTMの要素技術である,(1)超伝導探針の作製,(2)慣性移動機構の開発,(3)超伝導層の均一性の評価,に関する研究を行い,以下に記す成果を得ている.しかしこれらの要素技術を組み上げて,SPTMによる実験を具体的に行うには至っておらず,この点は今後に残された課題となっている. 1.超伝導フォノン源となる超伝導探針については,これまで転移温度が高い軟らかな金属はその探針化が困難であったが,本研究では2段階電解研磨法を用いて,Nb,Pb,V,Ta,Sn,In,Reの各超伝導金属の探針製作を試み,先端半径500nmの探針を作製することに成功している.特にPb,Inは,今回初めて探針化された金属である. 2.超伝導探針と試料との接近・接触を行うための低温用の慣性移動機構の開発を行った.慣性移動機構では,圧電素子に加える電圧波形が重要であり,本研究でもサイクロイド波形・放物線波形・鋸歯状波形,等様々な波形による駆動を試み,移動特性の比較を行った.その結果,速度変化が小さい鋸歯状波形では鉛直方向の移動は困難であることが明らかとなった.液体ヘリウム温度において慣性移動実験を行い,サイクロイド波形を用いた駆動により1ステップ当たり90nmの移動特性が得られている. 3.走査ホールプローブを利用して超伝導層の残留磁界分布の観察を行い,超伝導層内の常伝導欠陥をイメージすることにより超伝導層の均一性を評価する実験を行った.Bi系超伝導テープ材を試料とした実験により,試料内の欠陥が実際に走査ホールプローブ法でイメージできることが明らかになった.
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