研究概要 |
走査型振動電極法では解像度を上げるためプローブを試料表面に近付けると,プローブ自身のために電場が乱れるので誤差を生じる.この誤差を見積るために,電場解析を効率的に行う境界要素法を開発した.その結果,従来の境界要素解析法に比べ大幅に計算時間を短縮できた.二,三の解析例により本手法の有効性を示すとともに,プローブ自身により測定値が過大評価されていることを明かにした. 試料表面から離れた測定点における,誤差を含んだ測定結果から,試料表面の電流密度分布を推定する逆問題の解析手法について検討した.問題の悪条件を緩和するために,試料表面の電流密度と電位がある関係(分極特性)を満足しなければならないという先験情報だけでなく,試料金属が既知であるのでその分極特性はだいたいこの位だろうというあいまいな先験情報をも利用する新しい逆解析手法を開発した. さらに,この逆解析手法の効率化および一般化を図った.すなわち,まず,離散化した代数方程式の係数行列を特異値分解し,小さい特異値を0に置き換えて条件数を低減した後,解集合をMoore-Penroseの解と零空間の和として求める.次に,あいまいな先験情報をmembership関数とするFuzzy集合として表現し,先に求めた解集合との積集合またはその重心を与えられた逆問題の解とする,という解法を提案した. 走査型振動電極法においてプローブ自身によって乱された電場の測定結果から,試料表面の電流密度分布を推定する逆問題の解析を行った.しかし,測定値としては予め順解析によって求めた計算結果が用いてられている.今後,実際の実験による測定結果を用いた逆解析が必要と考えられる.すなわち,金属表面の近傍においては複雑な電気科学的反応が生起していると考えられるので,その把握とモデル化を急ぐ必要がある.
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