研究概要 |
硬質薄膜の機械的特性は,通常,数ミリグラムの極微小荷重による硬度試験で評価されるが,軟質母材の変形,薄膜形成時に生じる引張り残留応力,薄膜と母材の結合力等が微小硬度に影響する.したがって薄膜特性への影響因子を評価する手法の確立が不可欠であるが,現状ではこのような問題点を解消する手段がない.本研究では,これらの影響因子を正確に評価するために硬度測定過程の数値解析と実験的な方法論を確立し,それを実際的な問題に適用することを目的としている. 本年度も昨年度と同様に,二つの研究グループの間で密接に情報を交換しながら研究が進められた.昨年度購入したエンジニアリングワークステーション上では、薄膜特性評価のためのソフトウェア開発を弾塑性有限要素法と分子動力学を用いて行った.有限要素モデルでは巨視的な応力や変形を対象とし、分子動力学モデルでは格子欠陥やコーティング層の結合部に生ずる不整合を対象とした.従来,2次元弾塑性解析によって,薄膜厚さの1/10以下の押込み深さであれば硬度測定が十分に可能であるとする1/10則が得られているが,本研究で行った三次元弾塑性有限要素法の結果では,押込み深さが薄膜厚さの1/6以下であれば硬度測定が十分に可能であることが明かとなった.また分子動力学による解析では,薄膜が非常に薄い数原子層の場合には,硬度は常に低下すること,空格子によっても硬度が低下することが分った. 荷重条件制御用ボードと除振台を増設した装置を用いた研究では,超微小硬度試験の基準試験片を設定するための試験を行った.昨年度は金-パラジウム合金を対象として試験を行ったが,本年度は金を対象として研究を行った結果,特定の熱処理を行った金を標準試験片として利用できそうなことが明らかになった.また,圧子の先端丸みが硬度に及ぼす影響など,具体的な影響因子について詳細な検討を行った.
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