研究概要 |
本研究は,極薄の零磁歪のCo基アモルファス薄帯を作製し,種々の熱処理によって,磁区発生の核の生成・制御並びに磁壁の固着による磁壁移動の抑制の二つの磁区制御手法を用いて,高周波用超低損失アモルファス磁心を得ることを目的としている。 本研究では,第一の磁区制御法の磁区微細化の方法として,表面酸化熱処理による組成ずれによって析出するナノ結晶層を磁区発生の核として多磁区化・磁区微細化することを狙った。第二の磁壁の固着制御は,磁壁内部に分布する磁化の方向に熱処理によって異方性を誘導して磁壁のピンニングサイトを生成して,磁壁移動の抑制による渦電流損の低減を狙った。 当初の計画に従って,まず,表面酸化によるナノ結晶層の析出を行った。その結果,B量の多い組成でCoなどのナノ結晶層の析出が得られることが分かった。しかしながら,これら析出は表面全体に起こり,分散的に分布した析出を制御することが極めて困難であることが分かり,種々検討の結果,結局,この方法は断念し,第二の磁区制御に研究の重点を絞り,磁壁の固着による渦電流損の抑制による低損失化を詳しく検討した。 具体的には,(Fe-Co)_x(Si_y-B_<1-y>)_<100-y>,(x=77-79,y=0.4-0.1)組成のアモルファス薄帯磁心について,磁化困難方向(薄帯幅方向)に磁界中熱処理を施し,さらに,消磁状態で磁壁ピンニング熱処理を加え,高周波磁心損失,透磁率の周波数特性に及ぼす効果,並びに磁区観察による磁化反転機構を検討した。 その結果,高周波特性を改善するための次のような新しい知見が得られた。 (1)薄帯幅方向熱処理によって高周波損失は低減されるが,さらに磁壁ピンニング熱処理を施すと,大幅に損失が低減できることが明らかになった。Fe-Coの総量が79,Si量が0.1幅のとき,100kHzで約60%,1MHzで約50%大幅に低減でき,商用のアモルファス薄帯磁心に比べ30%程度低い値を達成した。 (2)透磁率は低周波側で下るが,周波数特性はピンニングにより約1桁高い10MH近くまで一定値が得られた。 (3)Kerr効果による磁区観察によって,ピンニング熱処理による磁壁の固着と移動の抑制を確認した。
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