1.我々は先に、カチオン欠陥型硫化物スピネルを合成し、これを正極とする二次電池を試作した。充放電実験の結果このスピネルには可逆的にリチウムがインターカレーションし、有望な二次電池正極活物質であることがわかった。本研究では、いままでほとんど調べられることのなかった種々のカチオン欠陥型硫化物スピネルを取り上げ、それらの正極活物質としての特性を調べ、新しい高性能二次電池の開発を試みた。 2.カチオン欠陥型硫化物スピネルは、銅を四配位位置に含む各種スピネルをヨウ素と反応させ、酸化することによって得た。酸化を行なうスピネルには、CuTi_2S_4、CuV_2S_4、CuCo_2S_4、CuCr_2S_4およびそれらの固溶体を用いた。合成には硫黄(S)と各金属粉末を用い、封管中加熱して合成した。また、固溶体は各端成分を合成した後、組成比混合物を封管中加熱することによって得た。 3.各端成分スピネルのうちCuTi_2S_4のみがヨウ素と反応し銅がデインターカレーションして、カチオン欠陥型硫化物スピネルを生成した。固溶体CuTi_2S_4-CuV_2S_4、CuTi_2S_4-CuCo_2S_4、CuTi_2S_4-CuCr_2S_4では、CuTi_2S_4の成分が少なくなるに従って、デインターカレーションされる銅の割合が減り、スピネル中の欠陥量も少なくなることがわかった。ESCA測定より、銅のデインターカレーションに伴い、もとのTi^<3+>はTi^<4+>に酸化されることを確認した。充放電実験をおこなったところCu_<0.11>Ti_2S_4を用いたものが最も良い特性を示した。100μA/cm^2の電流密度では、有望な二次電池正極活物質として注目されている層状結晶のTiS_2に勝る特性を示した場合もあった。本研究により、Cu_<0.11>Ti_2S_4は新しい高性能二次電池の正極活物質として利用可能であることがわかった。 今後、正極活物質の簡便な大量合成法について検討する必要がある。
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