研究概要 |
本態性高血圧は,遺伝素因保有者が長期間,ある環境要因に暴露することで,主に中年期以降に発症する多因子病と考えられている.疫学研究により,塩分過剰摂取,肥満などの危険要因が知られているが,40〜50%程度を占めると推測されている遺伝要因に関しては,まだ,ほとんどわかっていない.我々は,以前,日本人においてCaucasianと同様,アンジオテンシノーゲン(AGT)遺伝子のM235T多型のTT型の頻度が、本態性高血圧群において有意に高いことを示した. 本研究期間において,北海道鷹栖町の住民健診受診者より,過去10年以上の臨床データから,腎疾患,糖尿病を除外した,本態性高血圧の男性130例を選んだ。同じ集団から年齢をマッチさせた正常血圧者146例をランダムに選び対照とした。遺伝子多型はAGTではM235T,A-20C,G6Aの3種類、アンジオテンシン変換酵素遺伝子(ACE)のI/D、アンジオテンシンIIタイプ受容体遺伝子のA1166C、paraoxonase遺伝子(PON)のQ192Rを調べた。 その結果,高血圧症例でM235TのTTの頻度が有意に高かった(高血圧群72%、正常血圧群60%、p<0.05)。A-6G多型においてもAAの頻度が高血圧群に有意に高かったが、この多型はM235Tとほぼ完全に連鎖しており、不一致率は1%以下であった。他の4種類の遺伝子多型頻度は両群において差を認めなかった。 AGT遺伝子は本態性高血圧における原因遺伝子の一つであることは間違いないと思われる。また、ヒトの進化の過程で,A-6G多型はM235T多型とほぼ同時に発生したと考えられるが、TTでは血中AGT濃度が高いということを考えあわせると、遺伝子調節領域にあるA-6Gが真の原因でM235Tは同時に発生したマーカーである可能性が高いと考えられる。
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