研究概要 |
法医学領域で従来より行われているプランクトン証明方法に,分子生物学的手法を導入し,その方法論を確立することができた. 琵琶湖に特異的に発生するプランクトンの一種である藍藻類,ピコプランクトンの純粋培養に成功した.このピコプランクトンは大きさ約1μmの藍藻類であるが,個体群の色調からブラウン株,グリーン株及びピンク株の3種類に分類され,従来,光学顕微鏡下では形態学的識別をできす,蛍光顕微鏡下で蛍光強度の差を用いて識別されていた.そこで本研究では,蛋白合成を担う重複遺伝子リボゾームDNA(以下rDNA)の16SrDNAの塩基配列を検索し,その結果,各種間における変異領域を発見した.さらに,最も高頻度に検出される珪藻類の一種であるメロシラの塩基配列を検索し,これらに特異的なプローブを作成し,PCR条件を検索した.次に決定された塩基配列を,淡水産のみならず海水産を含め,多種類のプランクトンについて,系統樹を作成し,それぞれの相同性を決定した. 予備実験として湖水を用いてPCR法を行い,これらプランクトンの検出限界を決定した.そこで,ピコプランクトン及びメロシラについて,溺死以外の死体の臓器あるいは血液に既知濃度のプランクトン含有溶液を添加し,PCR条件の検索を行い,その方法論を確立した.さらに,溺死の疑われた例の臓器を用いて,PCR法によるプランクトンの証明を行い,琵琶湖での溺死例,その上・下流河川で発見された水中死体の死因及び死亡場所の決定に成功した.
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