研究概要 |
ヒトインスリン遺伝子を導入した発現ベクターをCHO細胞,線維芽細胞腫瘍細胞(3T12-3),下垂体由来細胞(AtT20),マウスインスリノーマ細胞(MIN6細胞)にトランスフェクトし,ヒトインスリン遺伝子発現細胞を分離,株化した。ヒトインスリン遺伝子の発現はノザンブロットにより確認された。ヒトインスリン遺伝子をトランスフェクトしたCHO細胞及び3T12-3細胞はプロインスリンを,ヒトインスリン遺伝子をトランスフェクトしたAtT20細胞及びMIN6細胞ではインスリンを分泌していた。インスリン遺伝子を発現させた各種細胞をヌードマウスに移植したところ,いずれも低血糖を発症し,ヒトインスリン遺伝子発現CHO細胞移植時には移植15日目,ヒトインスリン遺伝子発現MIN6細胞移植時には24時間後に低血糖によりマウスが死亡した。 ヒトインスリン遺伝子発現MIN6細胞はブドウ糖濃度依存性にインスリンを培養液中へ分泌したがヒトインスリン遺伝子発現AtT20細胞ではブドウ糖濃度依存性のインスリン分泌を認めなかった。また,ヒトインスリン遺伝子をトランスフェクトした細胞をカラムに充填し,灌流実験を行うと,ヒトインスリン遺伝子発現MIN6細胞はブドウ糖に反応し2相性のインスリン分泌を認めたが,ヒトインスリン遺伝子発現AtT20細胞では2相性のインスリン分泌を認めなかった。一方,ヒトインスリン遺伝子を発現しているAtT20細胞にグルコーストランスポーター2型遺伝子及びグルコキナーゼ遺伝子をトランスフェクトした細胞では培養液中へのブドウ糖濃度依存性のインスリン分泌を認めたが,灌流実験におけるブドウ糖刺激時の2相性インスリン分泌は認められなかった。本研究で構築した細胞は,糖尿病の遺伝子治療の可能性追求のモデルとなるのみならず,現在未解決な膵B細胞ブドウ糖認識機構,細胞内情報伝達機構,インスリン分泌機構の解明に資するものと考える。
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