研究概要 |
平成6年度及び7年度の研究成果より以下の結果が得られた。1)患者から得られた粘液嚢胞内容液について、それに含まれる蛋白分解酵素活性を検索したところ、内溶液中には正常唾液に比較して著しい蛋白分解酵素活性の上昇が検出された(Azuma M.,J. Oral Pathol Med.,24 299-302,1995)。2)1)により粘液嚢胞の発生・拡大には周囲結合組織を分解するための蛋白分解酵素活性が重要であることが明らかになったことから、次に実験系において嚢胞形成と蛋白分解酵素活性との関連につき解析した。すなわち、SV40 DNAによって不死化された正常ヒト唾液腺導管上皮細胞(NS-SV-DC)をin vitroにおいてTGF-β1にて処理した後、マトリゲルと混和しメ-ドマウス背部皮下に移植したところ、嚢胞様構造物を構築した。3)この際、細胞より分泌されるMatrix metalloproteinase (MMP-2)とTissue inhibitor of metalloproteinase-1 (TIMP-1)活性につき検索したところ、TIMP-1については変化が見られなかったが、MMP-2活性については著明な上昇が認められた。更に、TGF-β1、MMP-2及びTIMP-1 mRNAの発現につき検索したところ、TGF-β1とMMP-2については発現の上昇が見られたが、TIMP-1については認められなかった(Azuma M.,J. Oral Pathol Med.,1996,in press)。4)MMP-2のインヒビターであるTIMP-1をマトリゲルに混和することにより、TGF-β1によって誘導されるNS-SV-DCからのMMP-2を中和した際、嚢胞様構造物の構築は抑制された。従って、以上の研究結果より、唾液腺粘液嚢胞発症のメカニズムの解明及びin vitroでの嚢胞発症モデルシステムの樹立は達成され他ものと言える。更に、発症のメカニズムに立脚した粘液嚢胞の治療法、すなわち蛋白分解酵素活性の抑制という新たな治療概念が提唱されたものと言える。
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