研究概要 |
一酸化窒素等の低分子酸化物の生体内情報伝達物質としての役割が注目されている中で,類似の反応種である一重項酸素の生命現象における作用に関する研究はほとんど行われていない.本研究の目的はこの一重項酸素を特異性の高い方法で検出し,その生体における作用機序を明らかにすることにある.具体的には一重項の励起状態酸素(一重項酸素)から三重項の基底状態酸素(三重項酸素)になるときの近赤外領域の発光スペクトルを検出するもので,従来知られている方法に比べて格段に特異性に優れ,信頼ある測定法であるが,感度が鈍く生体における微量の一重項酸素を検出することは不可能であった.我々は平成6年度までにGeフォトダイオードを組み込んだ近赤外領域発光検出器を新規に作成し,平成7年度には本器を用いてニューキノロン剤による光過敏症の発症機構を解析し,更にphotodynamic therapy(PDT:癌治療法の一つで光線力学療法と呼ばれる)に用いるためのポルフィリン類の一重項酸素生成能について比較検討した.平成8年度は更に感度の向上を目指して,In/Ga/Asフォトダイオードを検出器の心臓部に用いた世界で初めての近赤外領域発光検出装置を作成した.本装置は波長掃引型であり,近赤外領域発光検出装置としては特異性・感度ともに最も優れている.本測定装置を用いてP.acnesから生成する一重項酸素を捉えることに成功した. 今後,この装置を用いて一重項酸素の生体における情報伝達物質としての可能性を検討することにより,一重項酸素の生体での役割が明らかになるものと思われる.
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