研究概要 |
本研究は,ギリシア的観照や科学的知識論のモデルの下に,ともすれば非学問的かつ二次的とみなされてきた「倫理学(エチカ)的人間論」を再構築する目的で始められた。そのため従来の知見と異なる発想を得ようとして,ヘブライ思想,キリスト教教父哲学の基礎的研究に着手した。この分野ではヘブライ的言語用法の理解のため,特に「譬え」を研究し,本宮の著書として本年出版予定である。またメシア主義理解のため,スキレベ-ク著「イエス」の翻訳出版を実現した。他方教父研究の分野においては,雑誌「エイコーン」を継続刊行し,これまで未知であったギリシア・ビザンティン・ロシアに連なる比較文化,比較思想的諸問題を本邦に示し,反響を呼んでいる。以上の基礎的研究の上に本宮は,現代哲学,殊にヘブライ思想と関わるE・Lヴィナス,デリダ,J-M.マリオン哲学などの専門研究者および英米分析哲学の研究者と広汎な関係協力の下に,数度研究合宿を開き,その成果として「哲学原典資料集」の刊行を実現した。特記すべきは平凡社刊の「原典集成」,新世社刊の「東方教父研究シリーズ」などを通して,従来全く未知な分野である中世哲学の諸学派,ギリシア教父を本邦に紹介したことであり,これらは西欧哲学が関心の的となっている我国の思想界に新たな地平を抜いたといえる。諸外国の研究者との交流も促進され,本研究もさらなる発展途上にある。
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