数学の哲学における基本的な問題は、大まかに言えば「数学は何についての学問であるか」という問いに集約できる。これは言い換えると「数学的対象の存在」をどのように評価するかという問題であるとも言えるであろう。二年間にわたる本研究では、主として数学的対象についてのいくつかの見解を立ち入って検討することを通じて、それらの見解相互の関係を新たに捉え直し、既存の枠組みにとらわれないパースペクティヴを得ようと試みてきた。具体的には、構成主義において数学的対象の問題がどのような考えられるべきか、特に数学的対象を「心的な構成」とみなすことがどのような含意をもたらすか、を検討した。一方、数学的対象に関する実在論については、新たなフレーゲ主義とでも言うべき超感覚的実在を認めない形の一種のプラトニズムの立場を研究対象とし、その立場の整合性や問題点を検討した。その結果、構成主義に関しては(1)デトゥルフセンによっても指摘されたように、「心的構成」とその構成プロセスを一種の認識論として理解できること、(2)その上で、この認識論が必ずしも構成主義以外の立場を排除するものではなく、むしろ特定の問題の解決のためには両立させる必要があり、しかも両立させる可能性があることを示すことができた。また、新フレーゲ主義としてのプラトニズムについては、これが様々な問題を含みつつも、抽象的対象の存在についてのまったく新しい見解であること、そしてもしこの見解が維持できるならば、構成主義に立ちつつプラトニストでありうる可能性が開かれることを明らかにすることができた。したがって、以上の個々の問題についてはなお不十分な点はあるにしても、これらの結果を全体として捉えるならば、従来の実在論‥反実在論(唯名論)といった枠組みがもはや維持しがたいものであることは示されたと考えられる。
|