研究概要 |
本研究は,ガンのヘンリクス(1240?-1293)の思想をわが国に紹介し,同時に,哲学史上これまでほとんど看過されてきた一時期に光を当てるものである.本研究の目的は,欧米で1980年代以降急速に進展しつつあるヘンリクス研究の研究成果を踏まえつつ,これまでバラバラにしか論じられてこなかったヘンリクスの存在論と認識論を統一的に,13世紀の第4・四半世紀の思想文脈のなかで解釈しようとするものである.その目的を達成するため,具体的には各年度毎に以下のような計画の下に研究を遂行し,それぞれ一定の成果を得た. 平成6年度は,西欧13世紀の第4・四半世紀の思想状況を概観するため,「本質と存在の区別」をめぐるエギディウス・ロマヌス,ガンのヘンリクス,フォンテーヌのゴデフリドゥス等の思想を考察し,次の知見を得た.本質と存在の区別について,ロマヌスは「実在的区別」,ヘンリクスは「志向的区別」,ゴデフリドゥスは「実在的同一」を主張した.平成7年度は,ガンのヘンリクスの存在論に関して,まず〈もの〉の存在構造を概観し,つぎにヘンリクスの〈エッセ〉の意味をトマス・アクィナスのそれとの比較において解明し,次の知見を得た.アリストテレス同様,アクィナスもヘンリクスも〈エッセ〉を1.命題結合のエッセ,2.〈もの〉のエッセに区別したが,ヘンリクスは2.をさらに(2.1)〈本質存在〉,(2.2)〈現実存在〉に区別し,アクィナスにおけるエッセの意味を細分化した.平成8年度は,上記の成果を踏まえつつ,ヘンリクスの認識論と存在論の統一的解釈をめざした.すなわち,ヘンリクスの認識論の主要理論である「照明説」をドゥンス・スコトゥスの「存在の一義性」との理論的関連性において再検討することによってその問題点を抽出し,その問題を解明する鍵が,ヘンリクスの存在論における「〈本質〉のリアリズム的解釈」にあるという独自の視点を提示した.
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