研究概要 |
近世中国江南地方を中心に行なわれた宝巻は,教義系のものと,故事系のものと分かれる。教義系宝巻は,杭州・瑪瑙寺などで印刷され,一方の故事系宝巻は上海などの近代都市で石印されて流布した。故事系のものは,近代中国人にとって娯楽的に受容されていたように見なされて来たが,実はなお宗教活動の重要要素としても維持されている。現代においては,社会主義体制の強化により表面に現われなかった時期があるが,依然として農村部の郷村社会でも表演されていることが判明している。郷村の宗教的定期活動において、在俗の人士が宝巻を唱導する。また,宝巻の流布地区は,従来の通説では江南地方,つまり長江以南とされてきたが,近年の調査では中国の西北,それも甘粛方面でも行なわれているとされる。宝巻の調査報告によれば,演目は江南と同一のものであるが,既存の蒐集宝巻の内容と比較するとかなり内容が異なる。その流行地域の拡大,内容の相違については,新たな分析が必要になろう。今年度蒐集した宝巻・宝典は多くは清末のものであったが,国内に乏しい版本,鈔本であるものもあり,その紹介を行なった。また,東京大学でも目録等に記載されていない宝巻がいくか存在し,教義系・故事系双方に亘っている。宝巻については,中国側はなお迷信ということで制約を加えつつあるため,国外研究者のアプローチが大切になっている。富山大学の蔵本として蒐集した宝巻名については,紀要に報告した。目下,中国でも禁書扱いとなっているため,外国人が宝巻研究をする必要にある。
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