研究概要 |
本研究では、視野を左右変換された状態において、被験者は自らの手や指の動きを視覚情報に基づいて定位するのか、それとも触運動情報に基づいて定位するのかが吟味された。視野反転は直角プリズムを用いて、手指の運動生成は、細かく振動する円筒に軽く触れると手指が円筒に沿って回転するという方法を用いて実現された。手は被験者の意志によらず、受動的に時計回りまたは反時計回りに回転することになる。 被験者の課題は、覗き窓を通して見ている手指の回転方向が、時計回りか反時計回りのどちらと知覚されるかを、言語を用いて報告することであった。左右反転視状況では、視覚と触運動感覚とで反対方向の回転感が与えられることになる。その結果、ほとんどの被験者が、覗き窓を通して見ているときには、見えの上での回転方向を報告することが明らかとなった。(吉村・古賀,1995)。これは、自らの身体分銅の定位は、たとえ誤った情報であっても視覚情報に強く負うことを示している。 この結果を受けて、回転作業を連続して行っている被験者に対し、突然視覚情報を遮断する条件を加えた実験が行われた。視覚情報を遮断するための時間制御には、液晶シャッターが用いられた。実験結果は、被験者の反応様式は2つに大きく分かれることを示した。見えが遮断されると、即座に触運動情報に基づく回転感を報告する被験者がいる一方で、今まで見えていた視覚情報に基づく定位感を持続させる者も半数近くいることが分かった。(Yoshimura,1995)。この発見は、自らのボディ・イメージは、視覚定位に依存するものであることを強く示唆する。 本研究ではさらに,このような実験データを受けて,変換視状況のみならず正常視事態での視覚と触覚の関係を論じた理論論文(吉村,1996)と,わが国で集中的に行われてきた変換視研究の善貌を広く海外に紹介するための組織的展望(Yoshimura,1996)を行った。
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