研究概要 |
本研究は,強化量と強化遅延時間がともに変化するセルフコントロール選択場面および強化量と強化確率がともに変化するリスク選択場面における選択行動を統一的に理解するために,ヒトと動物を用いて,遅延時間と確率との機能的等価性について実験的に検討したものである. ヒトのセルフコントロール選択場面では,強化量と遅延時間がどのように関係するのかを選択のモデルである一般対応法則に基づいて検討した.まず,ヒトの選択行動研究の基本的手続きの確立を目的に実験を行い,確立した選択手続きにより,強化量と遅延時間次元の感度を測定し,このデータに基づいて,選好が局所的または全体的強化密度モデルのどちらのモデルにより記述できるかを検討した.この結果,ヒトは遅延時間よりも強化量の方に感度が高く,この場面の選好は,定性的には,全体的強化密度モデルで記述できることが示された.ヒトのリスク選択場面の検討は,十分ではなく,今後の課題である. ラットとハトのリスク選択場面では,固定と変動強化量の選択において,体重で定義されたエネルギー収支が正の時は,固定強化量を,負の時は変動強化量を選ぶ「リスク嫌悪」と「リスク指向」の選択が示された.強化量を遅延時間または確率への変換を検討する実験では,小強化量選択肢に対し,大強化量選択肢の遅延時間を増加させるか確率を低下させて,選好が無差別となる遅延時間または確率の値を求めた.この結果,強化量の遅延時間または確率への変換においても「リスク嫌悪」または「遅延嫌悪」が認められた.また,確実で遅延時間の長い選択肢と不確実で遅延時間の短い選択肢間で選好が無差別になることが示され,遅延時間と確率の機能的等価性の成立が認められた. これらの事実から両場面の選択行動を強化量と遅延時間の二次元から統一的に記述する可能性が示されたといえる.
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