研究概要 |
聴覚刺激を用いたERP研究は計画に沿って実施するとともに,視覚では顔刺激に絞って基礎資料を収集した. 1.広く研究されている視覚N400は,頭皮上分布と出現潜時から脳深部に発生源を持ち,語彙処理後のエピソード記憶へのエントリ-を反映すると推定されているが,音声語のN400も注意時に大きく発達し,聴覚N400が多分に意識的制御処理に関与することを示した. 2.注意の対象となった単語は反復提示によってN400減衰が生じ、制御処理の負荷軽減に応ずる効果が観察された.他方,非注意入力は後続の反復語のN400に影響せず,注意対象外の音声語入力に反復効果を発現するだけの語彙処理あるいは記憶系へのエントリ-はないことを示した.しかし,注意の対象となった単語は非注意条件下の数十秒以内の反復にわずかながらN400減少がみられ,注意選択機構は減衰的に働くことを示唆した。 3.N400の知見からは注意選択が語彙アクセス前か後かは確定しにくいが,ごく最近の知見から語彙アクセスを含む新皮質の言語関連領野の働きが左前頭・側頭部に分布するN330によって記録できる可能性がでてきた.予備的なデータながら本研究で観察されたN330に注意効果がなかったことから,後期選択説が仮定するように,注意選択は語彙アクセス後で働くようである. 4.顔刺激では,顔特異に誘発されるP170が確認され,顔認識初期段階の顔パタン同定に対応する電位と推定した.また,顔の向きを変えて認知・弁別課題遂行時のERPを記録すると,左向きのN400が右向きよりも左側半球導出で大きく,顔認識における顔の向きと左右半球機能との関係が示唆された.
|