本報告は、研究1と研究2の2つの部分から構成されている。研究1では女子学生327名、男子学生247名及びその両親を対象にして気質及び認知スタイルを測定し、これら指標の両親間及び親子間の相関関係を検討し、両親間ではみられない親子間の相関関係に注目し、その特徴を遺伝的要因の強いと考えられてきた気質と認知スタイルとの関係で考察した。その結果、娘と母親の間には認知スタイルの印象性尺度、息子と父親の間では気質の易動性尺度と抑制性尺度が親子間で関連の深い尺度であることがわかった。これまでの諸外国の研究から、モ-ズレイ性格検査の外向性尺度と神経症的傾向尺度は遺伝性の強い性格特性であることが知られている。坂野の先行研究から外向性尺度とは易動性尺度及び印象性・想像性尺度との間に正の相関関係、神経症的傾向尺度と抑制性尺度の間には負の相関関係があることがわかっているので、上述の本研究成果は遺伝的要因によるものとして理解可能なものであった。 研究2では、認知スタイルの元型と考えられる指組みの型の年齢的変化を20歳代から40歳代の男性2500名を対象に検討した。その結果、40歳代になると右指が上にくるいわゆる左脳型が増大することが明らかになった。指組みの型は親子間で遺伝することが知られているが、坂野の先行研究と他の研究者の結果の不一致の原因の一つが、坂野の先行研究で用いた親の年齢の高さによる可能性のあることが示唆さた。結果として認知スタイルの元型としての指組みの型の遺伝性を再確認するとともに、また25歳以降右半球機能が衰退するという、これまで知られている神経心理学的知見を裏打ちする結果となった。
|