子育て終了期(Postparenthood)における親子関係の性質を検討するために、両者の子育て観と現実自己観を検討したが、次のように結論できる。 (1)子育てを体験した母親と体験していない娘との子育て観とを比較すると、後者で子育てを重荷としてとらえる傾向が顕著であり、自分が育てられてきたことへの認識とは別に子育てを否定的にとらえていることが明らかである。このことは、未体験とは別に、メディアを通して、子育ての大変さを伝えられ、また、子育てが自分を生かそうとする意図とは相反と見ていることが影響していると考えられる。 (2)老後の子どもへの依存については、母親がそのことを重視しない傾向を示すが、このことは将来現実に子どもに頼るかはともかくとして、現在では、まだ自分も健康であるので、そのことを未だ考える境地ではないか、あるいは、子どもに頼ることを抑制的に見ることの現われと考えられる。 (3)現実自己観における規範意識は、母親が娘よりも高いものの、自己価値や対人関係におけるあり方については、娘の方がその傾向が強い。このことは、社会的活動期にある娘が自己を積極的に見るのに対して、子育て終了期にある母親は自己をより社会的ルールの中で見るためと考えられる。 (4)子育て観と現実自己観との関連は、娘の場合、子育てを肯定的に捉えることが、自己価値を高くみることに繋がるなど、両者に相関が見られるものの、母親の場合、両者の関連性が希薄である。このことは、母親にとっては子育ては終了したものであるために、子育てのもつ意義と自己のあり方を分離して捉えているためと考えられる。 (5)子育て観の母娘相関を見ると、娘の「子育ての重圧感」と母親の「子どもがいることが自分の存在の証」というように、一見相反する傾向に相関を示している。このことは、同じ親子であっても、娘がより社会的風潮に影響されながら、子育て観を形成している傾向が強いことを示していると考えられる。
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