研究概要 |
本研究では,従来困難とされていた運動力学に関する定性的な概念やモデルの理解を促すために,科学的な会話を可能にする教授デザインを行い,この教授デザインの効果を高校生,大学生に関してさまざまな側面から調べた.具体的には,天文学と力学を連続的に統合する問題群,運動力学的な現象をシュミレートするコンピュータ・ツール,VTRによって構成される実験,観察事例からなる学習教材を開発した.この教材開発では,日常の談話とニュートン力学の談話のコンテキストの違いを対比したり,明示することによって,グローバルな科学的な談話のコンテキストを構築することが,主なデザイン上のポイントである.また,ここで開発したコンピュータ・ツールは,たんに,実験や現象をシュミレートするだけてはなく,科学的な会話を支援することを目的とするものである.例えば,ある物体の運動シミュレーションは,地上,地上を移動する乗り物,宇宙のある視点などさまざまな観察点から観察可能なように構成し,運動についての談話の視点,前提,文脈を,社会的に共有し,また構築することを支援するといったものである. 開発した教授デザインの効果を明らかにするために行った,学習プロセスのVTR記録の分析によれば,当初いくつかの観察の視点,フレームワークの関係をめぐって混乱が生じ,それが,徐々に,あるいは,急に整理され理解に至るというプロセスが観察された.また,運動力学の基本概念やモデルの定性的な理解を問うポスト・テストの結果は,少人数で教授を行った場合,かなり高く,80-90%以上の正答率であり,また,高校の一斉授業で行った場合,50-60%程度であった.従来の力学の授業では数5%の正答率しか得られないことを考えればかなり高い正答率だが,一斉授業用の教授デザインとしてはより洗練すべき余地がある.
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