研究概要 |
本研究は,急速に超高齢化するわが国の高齢者地域ケアシステムの動向と,高齢化の進展とコミュニティケアの先進国英国が展開してきた政策と実践を分析し,その効果と課題の比較を試みた結果,次のような問題の所在が明らかにされた。 (1)1980年代から北米に主導されたケースマネジメントは,わが国でも専門家を中心に関心を高めてきたが,基本的に家族扶養に依拠するわが国の高齢者ケアシステムでは,それがごく一部に限られた試行の段階にとどまって,社会的ケアシステムに位置づけられていない。 (2)その試行事例でさえ本来のケースマネジメントの実践との格差は大きく,ケアのコーディネイトに過ぎず,しかも限られたサービス量の制約のもとで,ホームヘルパーとデイサービスを追加的供給にとどまるもので,高齢者の長期的,継続的ケアへの効果は期待できない。 (3)公的介護保険構想では,英国のケアマネジメントの用語が使われ,アセスメントとケアプラントの作成が強調されているが,看護モデルを基礎としたアセスメントでは,高齢者の在宅生活の質の維持,向上に適切性を欠くものであり,生活視点にたつ検討が必要である。 (4)英国の90年改革は,コミュニティケア・サービスの量的増大が必ずしも質的な投資効果を実現していないという批判に対応するものであるが,地方自治体の責任によるケアマネジメントの導入を長期化,継続的ケアへのシステムとして一定の評価をすることができる。 (5)その一方,行政の責任をサービスの供給と購入に二分化したことは,ケアマネジャーといわれるソーシャルワーカーの中には,ソーシャルワーク実践の専門性を失わせるという批判があり,今後の社会福祉実践への影響という点では,現時点でまだ不透明な部分が少なくない。
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