研究概要 |
本研究は,個人のQOLを重視する立場から,1.精神遅滞者の高齢化に向けての対策の現状を明らかにし,2.合わせて中高齢精神遅滞者自身のニーズや意見を把握することを目的とした。本研究では,1の目的のために内外の文献レビューと施設関係者へのヒアリングを行い,2の目的のために中高齢精神遅滞者を対象にした面接調査を実施した。 1.精神遅滞者の高齢化に向けての対策:精神遅滞者の高齢化問題は一部施設では非常に深刻になっている。諸外国では,別施設化やノーマラーゼーションの文脈でこの問題が頻繁に取上げられているが,我が国では医学的な研究が先行し,処遇の在り方についての議論は未熟である。大規模成人精神薄弱者施設関係者およびこの分野における研究者数名へのヒアリングでは,個人のライフサイクルやライフコースへの配慮,家族関係の調整の難しさ,精神薄弱者個人のニーズの把握の難しなどが指摘された。いずれも我々の先行調査研究において既に指摘しておいたものである。その他,我が国特有の制度的,法制的側面の問題点,現場の指導員や擁護・看護者への教育体制の不備や待遇の悪さなどの問題点も指摘された。 2.中高齢精神遅滞者のQOLの測定の試み:入所施設の中高齢精神遅滞者を対象に面接法を用いたQOL測定を試みた。遅滞程度が軽度(あるいは中度)であれば非構造化集団面接を中心にして個人面接でそれを補う方法によって個人の意見やニーズをある程度把握できることが確認された。ただし,信頼性の高い面接を効率よく実施するためには,個人の経歴や施設での生活の実態について十分な知識をもった第三者が面接に当たることが重要である。発言内容を分析した結果,施設生活の諸側面に対してきわめて多様な意見があることがわかった。今後は,その内容の分析を深め,面接の構造化・標準化を進める必要がある。
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