研究概要 |
弥生時代の青銅製武器型祭器については、これまで同笵品がほとんど抽出されていない。当研究では、福岡県小倉新池遺跡出土の27本の銅戈,同県原町遺跡出土の49本銅戈,同県隈・西小田遺跡出土の22本の銅戈,同県西方遺跡出土の12本の銅矛などの一括多数埋納例について同笵品の抽出を試みた。その結果,小倉新池遺跡出土銅戈27本については,(1)4号=9号=11号=22号=春日市蔵2号,(2)14号=18号,(3)15号=20号,23号=25号,以上の4組11本が互いに同笵であることが確認できた。隈・西小田遺跡出土の22本の銅戈については,その中に互いに同笵のものは含まれていないが,6号銅戈は,出土地不明の福岡市住吉神社蔵の6本の銅戈のうち6号と同笵のようである。原町遺跡出土の銅戈については,資料化しえた24本の中に互いに同笵のものは確認できなかったが,内に綾杉文を鋳出した30号銅戈は,福岡県片野山遺跡から出土した11本の銅戈のうちの1本と同笵の可能性が高い。原町遺跡と片野山遺跡は比較的近接しているが,複数集団による同笵の青銅製武器型祭器の分有を確認できるいまのところ唯一の資料であり,武器型祭器の流通をうかがいうる点で非常に貴重である。また,今研究では,これまで1例しか知られていなかった新たにシカの絵画を内に鋳出す銅戈を新たに3例確認し,銅戈の祭祀においてシカのモチーフが非常に重要な役割を果たしていたことを明らかにできた。さらに,鋳造後に青銅製祭器に刻された記号は,島根県神庭荒神谷例のほかにこれまで報告例がなかったが,西方遺跡出土中広形銅矛の全個体,原町遺跡出土中細形銅戈の一部,長崎県大綱遺跡出土中広形銅矛の1本にも記号状の刻線があることを確認した。こんご,このような刻線の意味を考える上で重要な資料となると考えられる。
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