本研究で得た成果は、(1)資料調査上の成果と、(2)受容史的観点から見た場合の資料の位置づけに対する必要性の認識の深まり、それに付随して、(3)研究の過程で得た知見による近世漢字音研究、の3点に集約される。 (1)京都・東京等を中心とする資料調査、あるいは既出版の文献資料の調査等を通して、近世唐音資料は広く全国の図書館・社寺等に分在していること、実は相当数既に紹介されていることなどを発見するとともに、それらに対してはそれぞれ改めて受容史的観点から精査を加えるべきこと、そしてそれらにはその価値が十分にあることを見いだした。なお、現在までに完成させえた、そのリストアップ、学会への紹介等は本研究の所期の目的を十分満足させるものであるが、現在もなお資料整理は続行中であり、今後とも長期間にわたる課題となるものである。 (2)近世唐音受容史的に上記のような近世唐音資料を観察を通してそれぞれの資料の逐一の受容史的観点からの資料的位置づけが今日なおほとんど研究されていないこと、従ってそれ自体の遂行が急務であることなどを明らかにするとともに、この事実を踏まえて、本研究ではまずはこの基礎的作業の礎を作るべく、そのための基本的なマニュアルを自ら考察し、そして、それに従って基礎的研究を一定程度進めること、すなわち、本研究の目的である受容史的観点からの近世唐音ないし近世唐音資料の位置づけ方について道筋を付けることができた。 (3)本研究の過程で、自ずから近世唐音、さらには呉音・漢音あるいは唐音一般について種々の情報が入手できたが、それらを用いて近世日本漢字音史研究を前進させることができた。 今後は、本研究で得た情報・知見を生かし、さらに近世唐音の全体像の把握に向かう計画である。
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