研究概要 |
1.『聖マ-ティン伝』の五つの版のテキスト(Junius写本版、Blickling Homilies版、Vercelli Homilies版、AelfricのCatholic Homilies,2nd Series,XXXIV及びLives of Saints,XXXI)の校訂を完了した。とくにこれまで一部を除いて未校訂であったJunius写本版については、原写本に基づいてテクスト全体の独自の新たな校訂本を完成した。これは原写本にみられる「書き加え」についての独自の調査研究の成果を取り入れたもので(その一部はNotes and Queries誌上に発表)、従来の研究にいくつかの重要な修正を迫る新発見を含み、画期的な意義をもつものと考える。その他の版についても、原写本のマイクロフィルムおよびファクシミリ版に基づいて既存の刊本の見直しを行い、いくつかの転写上の誤りを正すとともに、原写本の句読法などを再現したより正確なテクストを作成した。特に、刊行後一世紀近くを経たSkeat版のLives of Saints,XXXIには転写上の誤りが少なからずみられ、今回それを明らかにし得たことは、将来新たな校訂本の公刊を目指す上でも、大きな意義をもつと考える。 2.上記五つのテキストのコンピュータ可読テキスト化を進め、これを完成した。これは将来のコンコーダンス作成計画の基礎となるものである。 3.以上の基礎資料をもとにして、古英語『聖マ-ティン伝』作品群の言語の研究を行った。特に散文体の発達と系譜の観点から、Catholic Homilies版とBlickling Homilies版を中心に、副詞及び接続詞としてのaの用法について考察を進め、その成果を論文‘The Use of ba in AElfrician and Non-AElfrician Lives of St Martin'としてまとめた(その改訂版はAnglia 1996年度最終号に掲載される)。またこれと関連して論文「英語史研究とPhilology」を発表した。
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