理論上、物の集合体の上には一個の物権は成立せず、また集合物概念は原則として物を有体物に限定する民法85条に反するとされてきた。しかし、実務では、在庫商品や原材料のような多数の動産の集合体を一括して譲渡担保に供する方法が広く利用されるようになり、最高裁昭和五四年判決を契機に、中小企業の担保手段として判例法上、認知されるにいたった。 そこで、学説は、一方で、集合動産譲渡担保実行前であっても、動産の集合体上に一個の担保権としての効力を認めつつ、同時に、一定の範囲で集合物を構成する個別動産の浮動担保性を承認するという、一見相矛盾する法律効果を合理的に説明するために、数多くの試みを行ってきた。この問題はなおも論争中である。 本研究の主な成果は、「集合物」概念の有用性を証明し、再構成した点である。集合物概念を認めるかどうかについては現在見解が激しく対立しているが、(1)爾後取得動産について新たな行為なくして担保の効力および対抗要件の具備の効果が及ぶこと、(2)爾後取得動産に対する対抗要件具備時期を、個別動産が集合物へ搬入された時点ではなく、担保権が設定され「集合物」に対抗要件が具備された時点まで遡及させること、(3)したがって、また、この点から、債務者の資産状態が悪化していない段階で担保権が設定されているかぎり原則として爾後取得動産についても破産法上の否認の対象からはずれること、以上の点を合理的に説明するためには、集合物を一個の物として取り扱う必要まではないが、実行前にも集合動産に対して一個の担保権の成立を認めるべきである。もっとも、動産の集合体を一個の「集合物」として捉えていくとしても、それは有体物とは異なり、観念的便宜的な存在である。そこで、このような「物」に対して対抗要件を認めていくためには、(a)動産の集合体に場所的一体性があること、(b)個別の物の集合体の価値を越える集合物としての価値の存在が最低必要であると解される。特に、前記(2)の効力を認めるためには、単に動産の集合体であるだけで「集合物」性を認めるべきではないと解される。集合動産譲渡担保権者が、継続的な取引関係にある事業者間で利用され、銀行取引ではあまり使われなくなっている現状からすると、集合動産譲渡担保の対象に絞りをかける見解が実務的にも妥当であると考える。 現在研究はまとめの段階であり、早ければ来年度中に研究成果を単行本として出版する予定である。
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