研究概要 |
1993年に国連等の協同作業として公表された国民経済計算体系(1993年SNA)の内容とその実施への問題点を検討した。1993年SNAは何分にも膨大な体系であるので,研究者にとって比較優位があると思われる第VI章生産勘定,第XV章投入-産出表体系,第XVI章価格及び数量測度を直接の検討の対象とした。検討の結果は以下の通りである。まず,生産勘定については,新しく制度部門別生産勘定が作成されなければならないという勘定体系上の拡大があるが,制度部門別生産勘定の作成にはデータの利用可能性や精度については問題があるものの,現状においてもその作成は可能であると考えられた。生産勘定作成の問題点は,それよりも,第VI章において提案されている個々の問題への対応が大変であると考えられる。しばしば議論の対象となる間接的に推計される金融仲介サービス(FISIM)の問題は,様々な国の試算例もあり,また,これまでの日本におけるいわゆる帰属利子の扱いについての研究からみて実施可能であろう。公的資本ストックとその固定資本減耗の推計は,公的資本ストックの計数への需要が増加していることからみても実施されるべきであり,その基礎的研究も存在している。その他の問題も含めて,このような個別作業が厄介な課題となろうが,これまでの研究や経験からみて十分に対応していくことができると考えられた。投入-産出表体系については,価格評価(基本価格評価)の問題を別にすれば,現行国民経済計算における推計方法がほぼそのまま踏襲し得るものと考えられた。デフレーターと実質値については連鎖指数の計算がやや新しい作業となるが,これも現行推計方法によって十分に対処していくことができることが明らかになった。1993年SNAは体系の大きな変更よりも,個々の部品において大小様々な新しい提案があり,それへの対処が問題となるということがわかった。
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