研究概要 |
戦後東アジア諸国の経済成長について、先行する日本をアジアNIEsが追い、それをアセアンや中国が追うという「雁行形態的発展」を一般均衡型多部門モデル(CGEモデル)で数量的に検証するため、東アジア・日・米の10ケ国と9つの産業を対象とする国際リンク・システムが作成され、静学・動学の各種シミュレーションが試みられた。一般に、賃金コストの相対的上昇に伴い、労働集約から資本集約へと「技術」と「産業」の変化が起こり、比較優位が変化し、雁行形態的発展が生じるといった理論的分析がなされているが、各種シミュレーションによれば、比較優位の変化や雁行形態的発展が生じる最大の要因は、技術や産業の性質が労働集約から資本集約に変わるよりもむしろ、全般的な生産性(つまりTFP)が改善するかどうかにある。この意味で、クル-グマン教授の「まぼろしのアジア経済」における「TFPゼロ成長」仮説の検証を、多部門CGEモデルでさらに深めていく必要がある。この成果は、Discussion Paperの形で、California大学やBologna大学における国際会議で報告された。 リンクCGEと平行して、中国のCGEモデルによるインフレ等の分析を試みる予定であったが、産業別価格分析に関する新しい方法論的枠組みを見出したため、CGEモデル分析は今後の課題とした。新しい方法論に基づき、1987年と90年の2つの産業連関表を使って価格の2時点比較を試みた結果、この期間の産業別価格の2桁上昇の原因の半分は賃金上昇にあり、残りの大半は各産業の「TFPの悪化」によること、そしてTFPの悪化は中間投入の非効率、資本投入の非効率によって説明されることが判明した。再びクル-グマン仮説の検証が中国についても必要である。この成果は、新しいDiscussion Paperとして、研究会・セミナー等で報告されつつある。 (報告書1)M.Ezaki and S.Ito,“The Flying-Geese Pattern of Development in East Asia: A General Equilibrium Approach,"Discussion Paper No.31,GSID Nagoya University,July 1995. (報告書2)江崎光男・伊藤正一・王名・板倉健「中国経済のインフレーションと価格競争力」,Discussion Paper No.41,名古屋大学国際開発研究科,1996年3月。
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