本研究は理論的研究と実証的研究(聞き取り調査など)を基礎に、望ましい地方財政システムを探ろうとするものである。理論的研究においては、内外の諸文献をサーベイすることによって二つのタイプの地方分権があり得ることが知見として得られている。第1のタイプは、地方分権した場合これに伴い発生する非効率性(地域公共財の地域間のスピルオーバーなど)を排除するものとして地方財政システムを捉えるものである。第2のタイプは、すべての権限を地方政府に委譲した場合、地方分権に伴う非効率性は地方政府の行動によって排除されるというものである。第2のタイプには2つある。一つは、ナッシュ均衡においては地域公共財の決定および地域間の所得移転(いわゆる補助金)を地方政府の権限に委ねた場合、パレート最適な均衡状態が得られるというものである。また、もう一つは、地方分権に伴う非効率性はあるメカニズムを通じて、地方政府間の相互作用によって排除されるというものである。第2のタイプの地方分権の考えによれば、地方財政システムは不必要になる。しかし、空間(space)を明示的に考慮した場合、新たに非効率性が発生することが明らかにされており、地方財政システムが不必要になるかどうかはまだ究明されておらず、今後の研究に待たねばならない。 実証的研究においては、自治体での聞き取り調査、全国の地方自治体に対するアンケート調査を行った。その結果、地方分権を実行するためには人的資源の確保・財源保障の必要性を強調する自治体が多かったことなどが明らかになった。 報告書の最終章において、第1のタイプにおける地方財政システムのあり方と、第2のタイプの、いわゆる完全地方分権の可能性について言及されている。
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