研究概要 |
当研究計画の目的は,無限小解析の立場から量子場理論のLagrangian形式と荒木-Haag-Kastlerの代数的定式化との間の関係を明らかにすることであるが,後者のアプローチを創始したハンブルク大学理論物理学第二研究所のR.Haag教授から共同研究の申入れがあり,年度途中の1994年夏,2ヵ月の招待を受けて,量子場の局所状態を層として記述する問題の研究を行なった.一般に,物理的に意味のある局所量子場理論の局所状態は,エネルギーを有限に限るなら,状態空間の近似的な有限次元性の条件としてのFredenhagen-Haagの核型性条件を満たすことが期待される.この時,局所物理量は異なる局所状態を識別するために必要な「座標」の役割を演ずる.そして,局所時空領域のサイズとエネルギーの積を十分小さく取り,そのベキによって誤差の精度を特徴付けることにすれば,精度を上げるにつれ局所状態を座標付けるために必要な局所物理量は階層構造をなして増加する.この文脈で局所状態の貼合せによって大域的状態を構成するという問題を考察することにより,物理量の積構造と場の方程式の操作的な意味に新たな光があてられることが期待される.差し当たり自由場の場合についてこの状況を詳細に記述することから始め,現在,R.Haag教授および上記研究所のD.Buchholz教授と共に,得られた結果を共著論文の形で取りまとめる作業を行なっている.更に,D.Buchholz教授を今夏および来年度,数理解析研究所に招待する計画を学術振興会に援助申請中のところ,先頃その承認を得た.昨夏より始まったこの国際的共同研究を実りあるものとする上で大変有益な条件が与えられたので,今後,この計画を大いに発展させたいと考えている.
|