研究概要 |
宇宙初期の背景輻射場とガスの間の輻射摩擦相互作用によるブラックホール形成の可能性をいろいろな角度から調べた。まず,トムソン散乱を入れた輻射輸送方程式を完全に解くことにより,輻射摩擦の効果を正確に押さえる計算を行った結果,輻射摩擦においては,光子拡散はほとんど効かず,摩擦効果は光学的厚さに対し指数関数的に減少するということがわかった。また,ブラックホール周りの降着円盤の進化に関して解析を行い,宇宙背景輻射による摩擦が働く場合の定常ガス降着の解析解を見いだした。さらに,ガスの降着が進み,ブラックホール近傍からの輻射による圧力及び摩擦が効きだす時期の進化についても定常解を見いだした。また,外部輻射摩擦が働く場合の球対称ガス降着に関しての自己相似解析を行い,解析解を見いだすことができた。さらに,ブラックホール形成の最終段階に関係すると考えられる自己重力的粘性降着円盤の進化について解析を行い,定常解と,自己相似非定常解を見いだすことができた。 宇宙初期のブラックホールが及ぼす宇宙論的効果については,まずブラックホールによる宇宙再加熱をガン・ピーターソン効果との関連で調べた。その結果,初期密度ゆらぎのフーリエ・パワースペクトルの羃乗指数が-1.7程度のときに.ガン・ピーターソンの中性水素の光学的厚さと無矛盾になり,宇宙紫外線背景輻射とも整合することが示された。次に,残存ブラックホールに対する遠方銀河内の星の重力レンズ効果を調べた。その結果,宇宙のバリオン物質の大部分がブラックホ--ルとなり,銀河などのハロ-を構成しているとすると,見かけの等級23等で,1平方度当たり1つの事象が検出される確率になることがわかった。また,重力レンズ特有の光度変化が数カ月の時間スケールで起こりうることが示された。 一方,クェーサー/AGNと爆発的星形成の強い繋がりを説明する物理的メカニズムとして,星形成領域からの強力な輻射場による輻射摩擦によって,中心核を取り囲む回転ガス円盤から角運動量が効率よく抜き取られ,さながらなだれ的に中心に落ち込むという「輻射性なだれ」モデルを提唱した。この「輻射性なだれ」は,数pc-100pcの領域では,通常のα粘性による降着よりも速い。また,銀河中心のバ-不安定による質量降着は,数10pc程度までが限界であることがわかってきており,「輻射性なだれ」は,バ-不安定が効く数10pcまでと,α粘性が効く1pc以下の間を繋ぐ第3の質量降着メカニズムと見ることができる。
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