平成6年の7月に赤外線検出素子の駆動データ取り込みに成功し、8月には広視野赤外線カメラシステムとしての試験観測を行った。この時点で明らかになった問題点を改良し、11月には我々の太陽系にもっとも近い大質量星形成領域であるオリオン巨大分子雲の広視野赤外線撮像観測を行った。観測波長はKバンド(中心波長=2.2ミクロン)、Hバンド(中心波長=1.65ミクロン)とブラケットガンマ輝線(波長=2.167ミクロンの狭帯域フィルター)であった。これまでの赤外観測やミリ派の分子線観測からオリオン巨大分子雲全域で星形成が起こっていることが知られているが、この中でも最も大質量の星が生まれているオリオン大星雲近傍が近赤外線で最も明るい。赤外線イメージは連続光、輝線共に可視光で見られるオリオン大星雲と比較的似ている。可視光でのオリオン大星雲は電離水素からの輝線成分が優勢であることから、赤外線でも輝線成分が優勢であると期待される。しかし、広帯域のKバンドイメージと狭帯域のブラケットガンマ輝線のイメージから得られる強度比の値から、Kバンドフラックスのうちブラケットガンマからの寄与が2パーセントからピーク位置でも12パーセントであることが明らかになった。このことから、電離水素からの制動放射による連続光を考慮しても、Kバンドフラックスのほとんどはオリオン大星雲で最近誕生した天体からのものであることがわかる。さらに、HバンドとKバンドのイメージの強度比から得られるH-Kカラーは平均的に0.8程度である。この値は、誕生直後の天体のカラーや星周円盤からの超過成分を考慮するとVバンドでの吸収に換算して2等程度となり、これらの天体は分子雲に深く埋もれた天体ではなくオリオン大星雲内か星雲に面した分子雲のごく浅い領域に位置していると考えられる。
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