研究概要 |
中性子星表面温度観測の最近の進展は,(1)標準的冷却機構(修正URCA過程)よりもずっと速い冷却機構,と同時に,(2)速すぎる冷却を押さえるための核子系超流体,の双方が必要との情報をもたらしている。速い冷却機構としては,π凝縮相,K凝縮相,多陽子混在相,等の「新物質相」での冷却過程(順に,pion,kaon,direct URCA,coolingと略称)が候補に挙げられてきた。本研究では(1)(2)の両立問題はこれら候補のうちどれが本当かを選別しうる道になるとの観点を強調しつつ,中性子星コアで発現しうる新物質相下の核子系超流動の可否を系統的に研究してきた。 (1)K凝縮相と(2)多陽子混在相:これら2つの新物質相は多量の陽子を含み,陽子も^3P_2型対相関が可能という特徴をもつ。しかし,これらの相では核子有効質量が小さくなることが主因となって,中性子,陽子とも超流体は望めないことが知られた。従って,kaon coolingやDirect URCA coolingは速い冷却機構の候補からはずされることになる。 (3)荷電π(π^c)凝縮相:核子系がnとpの重ね合わせからなる準粒子ηで記述されるため,準粒子の対相関を扱いうるようBCS理論を拡張した。η間の対相互作用は,n-nの^3P_2成分が弱まるが,一方,n-p間の^3P_2成分が付加され,正味は通常のπ凝縮の無い場合と変わらない。結果として3ρ_0(ρ_0は通常核密度)あたりまで超流体の存在は可能である。 (4)中性π(π^0)凝縮相:核子系がスピン秩序を伴った層状構造(ALS構造)をとるため,対相関は2次元的になり,核物質における低次元超流動という新しい課題となる。ALS状態に適合した対相関の理論を定式化し,更に,SU(4)クォークモデルを用いてアイソバ-Δ(1232)の混在効果を含みうる形式へと発展させた。Δ効果により超流体存在域は少なくとも4ρ_0まで拡がることが見出された。 以上(1)〜(4)から速い冷却機構としてはpion coolingが最も有望といえる。π^0π^c共存相での検討は今後の課題であるが(3),(4)はその重要なステップとなる。
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