研究概要 |
本研究計画は,クーロン障壁近傍および以下での重イオン核融合反応および核分裂を中心として,原子核物理学における巨視的量子トンネル効果に関する理論の開発と現象の解明を目的として行なわれた.また,関連した問題として,重イオン弾性散乱,不安定原子核を入射粒子とする重イオン散乱、天体核反応,相対論的平均場近似を用いた核構造の研究,中高エネルギー重イオン核反応,およびマイクロクラスターの研究を行なった.主要な研究成果は以下のとおりである.重イオン核融合反応については,^<64>Ni+^<92,96>Zr核融合反応,および^<16>O+^<112>Cd,^<144>Sm核融合反応の解析を通して,表面振動の高次結合効果の重要性を明らかにした.また,^<16>O+^<144>Sm核融合反応を相互作用するボゾン模型を用いて解析することによって,非調和振動効果の重要性を明らかにした.逆に,重イオン核融合反応に対する障壁分布の解析を通して,原子核の表面振動における非調和性や,原子核の変形の符号に対する情報が得られることを示した.多自由度系における量子トンネル効果については,断熱的量子トンネル過程における質量繰り込み効果の重要性を明らかにし,さらに,遅い環境の有限励起エネルギー効果を取り入れる散逸因子の方法,および,非断熱性の広範な領域にわたって定量的に量子トンネル効果の確率を計算できる動的規格化因子の方法を開発した.核分裂に関しては,^<234>Uを例にとり,動的規格化因子の方法を用いて,自発核分裂の寿命が原子核の内部自由度の存在によって著しく短くなることを示した.また,量子トンネル効果による崩壊から熱的崩壊への遷移過程を調べ,特に対相関の温度依存性によって,原子核が超流動状態から常流動状態に転位する臨界温度で核分裂幅が急激に減少することを予言した.
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