研究概要 |
本研究では液体ヘリウム中のスノ-ボールの生成過程と消滅の過程の研究として,1)スノ-ボールが生成される確率を決定する.2)スノ-ボールが固定であるかどうかを調べる.個体であればその構造はどのようなものか.ちなみに,普通の巨視的なヘリウムの固体は六方細密構造を示す.3)スノ-ボールの寿命の精密な測定によって温度依存性,さらにロトンとの相互作用を調べる.4)スノ-ボールの生成過程および消滅の過程を以上により明らかにする実験的な手がかりを得る.以上,一連の実験によってマイクロクラスターとしてのスノ-ボールの特質から超流動ヘリウムの振舞と相互作用を理解することを目指している. 研究の内容と成果は以下のとおりである.1)打ち込んだイオン線の強度と生成されたスノ-ボールの個数との比からスノ-ボール生成の確率を決定した.2)スノ-ボールの芯となるイオンの核偏極が保持されるので,芯となるベータ放射核の核磁気共鳴線の幅を決定し,これから,スノ-ボールが固体であることと,その構造に関する知見を得る.この前段階としてスノ-ボールの電場による移動と偏極保持の相関を研究した.そのために重イオン核反応によって放射性核を生成し,イオン光学系によって生成された各種のイオンを種類ごとに分離したのち,適当なエネルギーまで減速し,停止体やヘリウムクライオスタットに打ち込む実験を行っている.基本実験には大阪大学核物理研究センターのリングサイクロトロンENコースや理化学研究所のリングサイクロトロンのRIPSを共同利用している. また,液体ヘリウム内部のβ線発生位置を検出するために位置敏感型検出器の開発に着手し,位置敏感型半導体検出器をテストするほか,多芯比例計数管の開発を試みている.スノ-ボールをヘリウム中でトラップし,検出までの時間遅れを作り出し,個数の減衰率を求めることによって寿命を求めることや,今回の測定のデータをもとに,ヘリウム中のロトン等との相互作用を高精度で明らかにする新しい計画に繋げていきたい. 幸いなことにこの成果は核物理だけでなく,低温物理,クラスター科学,量子凝縮体などの分野でも国際会議などで,取り上げてくれるようになり,今後の発展を期待されている.
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