研究概要 |
時間をあらわに含むZenerモデルを拡張した、フォノンとの相互作用を取り入れたモデルにより,量子摩擦の遷移確率に及ぼす効果を明かにした。まず、非対角相互作用についての形式的摂動展開法により、摂動の一般項を、様々な極限的状況で評価し、遷移確率Pの解析的表式を求めた。量子摩擦の影響を、「位相の緩和」と「エネルギーの緩和」に分離して考察することが重要である。交差領域を通過するスピードと、位相緩和時定数との兼ね合いで、coherent極限とincoherent極限が定義できるが、その両方において、Pの簡単な表式が得られた。フォノンとの結合定数の強結合and/or高温の場合がincoherent極限に対応するが、この全領域をカバーする公式を初めて求め、この表式が、低温強結合極限および高温弱結合極限で、これまでに得られていた公式を再現することを明かにした。 解析的考察に加えて、多数モードのフォノン系のダイナミックスを、相互作用モードとそのダンピングとして扱うことにより、数値的シミュレーションを行った。減衰超演算子を導入して、密度行列の従う運動方程式を、スーパーコンピュータにより解き、パラメータの様々な極限的状況で、解析的考察より得られた公式が正しく再現されていることを確認した。さらに、中間的領域を含めて、量子摩擦を受けながら準位交差する系の動力学を、明かにした。 時間をあらわには含まないポテンシャル交差の問題に、この数値解析的手法に適用し、固体中の局在中心における動的無輻射遷移の動力学を調べた。光励起により高い位置に励起された系が、緩和励起状態に落ち着くまでの間に、ポテンシャル酵素域を通って、基底状態に逆戻りするプロセスの解析を行い、半導体中のDX中心などにおける動的過程を、このモデルにより考察した。
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