研究概要 |
KH_2PO_4(KDP)結晶に相転移温度(T_c=123K)以下で形成される180°強誘電性分域構造は、分域壁に垂直な方向に周期性を持ち、自己相似性を示す。分域構造の半周期それぞれが5分割カントール集合の第n世代のプレフラクタルによって特徴づけられることから"5等分中抜き構造"と呼ばれている。本研究では、まず、5等分中抜き構造の形成過程において、反電場E_dに由来する静電エネルギーU_Eと分域壁の表面エネルギー密度σに由来する分域壁エネルギーU_Wが共に重要な役割をしていると考え、(1)周期2Lの平衡値は結晶板の厚みdの1/2乗に比例すること、(2)n=0〜3と3′(n=3の亜流)の5世代は5等分以外のどんな中抜き構造よりも熱力学的に安定であること、を理論的に予想した。次にKDP、KDPと同型のRbH_2PO_4(RDP,T_c=148K)とKD_2PO_4(DKDP,T_c=220K)、硫酸グリシン(TGS,T_c=322K)、TGSと同じ対称性の変化を示すCsH_2PO_4(CDP,T_c=156K)それぞれにおいて光学観察と走査電顕観察を行い、5等分中抜き構造に関して以下に述べる成果を上げることができた。 (1)分極軸に垂直な方向に0.07mm≦d≦4.37mmの厚みを持つKDPの結晶板7枚において、n=0〜3と3′の5世代を観察した。 (2)KDPの5等分中抜き構造において2L∝d^<1/2>が成り立っていることを検証した。 (3)RDPとDKDPに5等分中抜き構造が形成される様子を観察した。 (4)CDPとTGSの相転移直後に5等分中抜き構造が形成される様子を観察した。 成果(1)と(2)は、U_EとU_Wの両方が5等分中抜き構造の形成と安定化に寄与していることを検証している。(3)は、σがT_cの1/2乗に比例することから、5等分中抜き構造はE_dの下でσの大小に係わらず形成されることを明らかにしている。(4)は、分域が結晶学的に回転双晶(KDP,DKDP,RDP)に分類されるか反転双晶(CDP,TGS)に分類されるかに係わらず、σにわずかな異方性があればE_dの下で5等分中抜き構造が形成されることを明らかにしている。
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