研究概要 |
直線的な構造をもつ共役系分子,高分子は,光異性化などの光誘起構造変化や,大きな3次非線形光学定数を利用した機能性有機材料として重要な物質である。この機能性は,直線状共役分子に特有な1次元的電子状態と密接に関連している。本研究の目的は,βカロチンなどの有限な共役長を有するポリエン分子と,その長さを無限大とした極限である共役系高分子の性質を精密な分光測定によって詳しく調べ,これらの共役電子状態の微視的な性質を明らかにすることである。この目的に関し,平成6〜7年度の2年間の研究によって,次の成果が得られた。 1. ポリエン,共役系高分子(ポリシラン,ポリジアセチレン)の良質な薄膜試料の作製技術が確立された。βカロチン,ポリシランについては,スピン・キャスト法により,ポリジアセチレンについてはモノマー蒸着膜を光重合させる方法により,精密な光物性測定を可能とする良質な薄膜試料が得られるに至った。 2. 電場変調吸収分光法,3次高調波光発生法,2光子吸収法などの3次非線形光学測定を上記の薄膜試料について行い,従来ほとんど知られていなかった共役系電子状態,特にその1次元励起子状態が定量的に詳しく解明された。 3.光励起によりこれらの共役系分子,高分子に作られた電子励起状態が,励起後に分子変形を伴って緩和してゆく過程のダイナミクスが,ナノ秒,ピコ秒パルス・レーザーを用いて詳しく調べられ,その成果に基づいて,可逆的な光誘起相転後を示すポリジアセチレンが初めて発見された。
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