研究概要 |
我々は一次元量子スピン系における「スピンが整数か半整数かで基底状態が異なる」とするハルデンの予想を実証するため,Ni^<2+>(s=1)の複酸化物Y_2BaNiO_5に関して単結晶育成を行い,更にこれを用いた磁気励起を中心とした中性子回折実験等からハルデンギャップの実測を試みた. その結果,単結晶育成に関しては,BaO-NiO系のフラックスを用いた静置徐冷法によって5×3×1mm^3程度の単結晶を多数生成することに成功した.得られた結晶についてはX線回折実験,EPMA組成分析,沃素滴定による酸素量分析,SQUIDによる磁化測定を行い,定比組成の単結晶であることを確認した.また磁化測定からは異方性に関する情報を初めて得ることが出来,一次元鎖方向でのエネルギーギャップ(ハルデンギャップ)Eg_<11>は〜77K,それと垂直な方向ではEg_1〜71Kと求まり,ほぼ等方的にギャップが開いていることが明かとなった. 以上を踏まえた上で,この単結晶試料による中性子回折実験を東京大学物性研究所と共同し,日本原子力研究所JRR3研究用原子炉で行った.非弾性磁気散乱およびその温度変化の測定から,T=7Kでのブリルアンゾーン中央でEg〜9meVのエネルギーギャップが開いていることを確認し,更に一次元鎖方向とそれに垂直な方向への磁気的分散曲線を得ることに成功した.des Cloizeaux and Pearsonの提唱するスピン波理論に基づきデータを解析したところ,一次元鎖方向での交換相互作用の大きさJは〜11.3meVとなり,ゾーン境界の分散を外挿すると〜42meVとの値を得た.一方,一次元鎖に垂直な方向での磁気分散はほとんど波数依存性を示さず,この物質が典型的な一次元磁性体であることが明かとなった.
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