研究概要 |
遠赤外・赤外領域は分子分光では回転スペクトル・振動回転スペクトルの現れる最も重要な領域である。一昨年、国内では初めて富山大学に、波長可変の遠赤外分光装置が完成した。この装置により50〜1000μmの波長域の分子スペクトルはもれなく観測でき、また従来の測定精度より2桁高い周波数精度のデータがえられるようになった。さらに赤外域でも、9〜11μmの領域で波長可変の赤外分光計が完成した。 これらの分光計を使って種々の分子の分光を行ってきたが,しばしば大切なスペクトル線が他の線と重なって分離できないことがある。スペクトルの分解能は分子のドップラー幅で制限されているが,これを解決するには、試料の分子を分子線の状態にしてドップラー幅を狭くするのが最も確実な方法である。本研究では、分子線を用いて遠赤外・赤外領域でドップラー幅以下の分解能のスペクトル測定をする方法を確立することを目標とし,幸い期待通りの成果を得ることができた。とくに遠赤外の領域では、このような高分解能な測定の例は初めてのものである。 1.線源の開発:分子線を発生する線源部には,スペクトルを豊富に観測できるように,分子の断熱冷却が起きにくいマルチキャピラリーアレイを用いた。線源の形状の異なるものをいろいろ試験して,最適な大きさと形状を決めた。この線源の開発により,低い試料圧でもきれいなスペクトルをとることができ,同位体のような高価な試料でも利用できるようになった。 2.高分解能なスペクトル測定の実現:分子線を用いたスペクトルの高分解能化を,水の同位体H_2^<18>O分子とメタノール分子の遠赤外域のスペクトル線を用いて示すことができた。水のスペクトルの例では,通常の試料セルを用いた場合の線幅が3MHz以上あるのに対し,分子線を用いることにより1/10以下である200kHzの線幅を得ることができた。またメタノールでは近接した2本のスペクトル線を分離して観測できた。
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